『夜明け前』

宙水槽の真空の指先に纏わってあなたは生まれます。とても綺麗で、僕はいつも感どうしてしまいます。でも、あまりながくあそんでは、いけません。なぜなら、とうめいになってしまうからです。とうめいになると、ぼくは、みえなくなって、きみのことだってみえなくなって、ええと、そう、こどものほしのじゅう力は気紛れで、お姉ちゃんに似ています。ありもしない心の痛むことなんてありはしないのだからなんて、泣きながら地面を撫でている、あのお姉ちゃんにです。やわらかいのにしなよ。ぬいぐるみにしなよ。あたしにしなよ。ねえ、月がうるさい夜だから。


花を描くと言ってあなたは、僕を描いてよこした。こびりついた絵筆のあいを溶かす音の全天に響きわたって透過して、とりどりの季節の意味だとか、わたしの知らない神さまが見る夢のでたらめさだとか、小指でつついて傾げる小首の熱っぽくてきみに触れられるみたいだとか、そうしたものたちと、街の淡いともしびと、なんにも変わらないでうすくかがやいている。


ぼくたちの落としものは夜のなかにだけあって、なんにも見えなくったって見つけだせる、そういうきまりになっている。終わりの澄んだ音のうつくしい今日なら空の際限のないことだってわらって話せるよ。冥王色した祈りのひとつきりだってきみにこぼせば星より誰よりきれいだよ。


極光の窓紗に滲む。受信機越しの異国の言葉は、まだ暗い部屋を、寝静まった今日の一つひとつを、幸福な夢のあわいで満たしてゆく。ではつぎ、十億年とちょっと前に書かれたっきり読まれなかった女の子からのおたよりです。ひゅう、好きなんだってさ、きみのこと。

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