廻廊越しの時間の部分は古びて遠くて停止した破線に似ている。
似て見えて、たぶんだけれども波打ってはいない。
停止した、停滞した詩篇越しの領域が水月寄りの時針であるのと変わらぬように、わたしはいつでもきれいな途方もなさのただなかに置きざりにされたふうな心持ちを忘れないで抱えて生きていて、だからかしらいつまでだって世界を眺めていられるのだった。
途上というならそのとおり、わたしはわたしの知らないどこかを漂泊するのがつまりは生きるようなものだと自認して他にどうしようとも思わないわたしだったから、どうにもしないでなんとなく遊歩するふうな今日とか昨日とかいったものを浪費しつづけいまだって渡っているのだけれど、そうした折折の価値というものはそれなりにわかるつもりでいて、そう、あなたにだけなら説明できるよ瓶越しにだってできるのわたし。
「境界とかいちばんうるさい」
そうだね境界がいちばんうるさいわたしもそう思うよとわたしは中空を描画するあなたに向かって答えた。
色の薄く無いみたいなかすかさの無闇にあざやかでわけがわからないという感想ばかりを地面に残したいとわたしは思った。
地面は沙で、とどまる気配はない。
あるいはとどまる可能性があるのかもしれなかった。
待つのはこわかった。
機を逸すれば永遠になる。
あなたが死ねなくなる。
「ね、ゆびきれいだよね」
瓶越し、あなたの言葉のひとつだってうそだったことはないいつわりはない吐けないようにできているのがここだから、この領域、抜けるまでは真実でいるしかない、とわたしは思考する。
伝える。
ゆびさき。
鈍らないでまだわたしでいられていることのゆびさきからわかってゆく。
「真実」
そう、真実。
しんじつ。
ほんとうのこと。
であるしかない。
いるしかない。
わたしたちはあまりにながく歩きつづけてしまったのかもしれないねって思っているのもほんとうで、だからあわせて伝えた。
「瓶越しに。境界越しに」
ちいさな椅子に、ちょこんと在るのがあなたでしょうってわたしは言ったのだった。
そうして出会ったわたしたちだったでしょう。
わたしたちは互いを知ってそんで至ったのだったこのわたしに、わたしたちに、そういう連続のなか、わたしはいつでもわたし以外のすべてを否定したかったあなた以外のすべてが気にいらなかったそうすることでしかまもれないものがあると教えられたからだった誰だかに、だれだったか。
「見えたよ」
境界。
大気の層の可視化されてどうしようもなくわからなくなった空間ばかり綴られていませんか。
いつかはまとめられるんでしょうかどうしてか、どうやってかまとめられるんでしょうかひとつなぎにたしかに?
そう思えた。
だって、思っただけなら平気っぽいっぽいことをあなたは言ってて瓶越しに、ぽいぽい言っててだからかそうして隔てるなにをも響かせないでも硝子の向こうで手なんてつないでわたしたちは在ったって責められなんてしないんだよねって思ったっていいんだよねってわたし、思ってて、ね、いまだって。
いられて、いつづけて、いつづけられて、歩きつづけられて、わたしでいられたし、あなたでなくもない、たしかめて、呼吸だってさ、できちゃって──もひとつ境界。
「いつでもいいね」
越えればいつでも過去になる。
だから、いつでもいい。
いつだって、いつにだってわたしたちは歩きはじめることができる。
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