「無辺咲く埜果図に刮がれまろぶ。花に喰わせる身のあらば」
縷界に夜気のささら振れて趨る。繰る四季相のひと綴り、水涯に揺蕩い散れようとも糾う端などなかった。永遠のまどろみのなか、偽岸に星の叢雲ざして澪をかたちづくってゆく。白迹は燈のくゆりのように熟敷の淼象を透きわたり、背に祓う月のおぼろかなるをあなたばかりに証だててやがて滲んだ。沙眼にとらうる如何なる調べも卵骸の耳朶には通さない。戀屠る戀、憧憬さえをもうち棄りすぎてぼくたちはなお此方に彷徨いつづけている。背を指を、深淵を、倦むこともなくさぐり奏でながら。
哥うように呼びかける、懐かしいこえだけが、それきりばかりが風を灼きつけ私にとどくというのなら、うつくしいほどに痛む心の祈りの裡にもゆきさって、遠くに暮れ染む真赫のこの睛にいつはてともなくうしなって、それで惜しくはなかった。
旋律のゆらめいて不壊の波に似る。教室の窓辺、薄明りにまぎれた古啁のひびきをなぞるのが僕はいっとう好きでした。かわりものだとわらったら、かさねた文殼くぐらす絲に、見詰める理由を結んだろうか、君。
なんにも知らない誰かのままでいる。
空ばかり、眺めて知れないわたしのままでいる。
忘れるだなんて言わないで、あなたのままで、変わらないでいて、ずっと。

『Void』
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