弥花のあなたに降り咲く茜であったろうか。
延るさきからゆびひとつ、ゆびのさき、結染め、流れるばかりのこころの澱の、まだ知られないでわたしはわたしをとどめるあてもない。わたしのようなもの、わたしにとおいもの、わたしをうがつものの隔てのないままこの身に抱えるふうだった。
みずに、みなわに、さざなみに、聲音の夜交ぜにかすめるみたいにわたしたちはわたしたちを認識する。不意の繚繞に水分りの現象を知るように、どうしようもなく此処に在る、どうにもしないでずっとあって厭わしいふうなわたしをわたしは拒めないでいる。
ねえ、ニニ、もういいよ。
もう、やめて、いいんだよ。
あなたはあなたをきらいなままで、そんでもあなたでいたかった、それだけだったんでしょう。
ねえ、ニニ、いいんだよ。
わたしはあの子にそう言われたかったのかもしれない。
わたしは、あの子に。
「うんざりする」
だよね。
なんて、ほんとうに?
「どうにもしようがないじゃない」
そうだね。
なんて、ほんとうに言ってほしかったの?
すべてが潰えてなにもかも、きれいな、きれいな、きれいな世界にわたしたちはゆきついた。わたしたち、わたしと、カフと、ゆきついて、暮れようひとつも無いくらいにやさしいひかりのすこしだってのこらないで毀たれなければならなかった世界まで、果てにまで、くりかえさないで重畳しないで終わって終わって終わった時間のむこうがわにだって幾度だってたどりつかなければならなかった。ぜんぶ、うそでも。うそだって。
ねえ、カフ、わかったよ。
わたしね、わたし、わかったんだよ。
わたしはあの子に忘れないでいてほしかったんだよ。
わたしのこと。
わたしたちのこと。
あの子自身のこと。
あの子が好きだったもののこと。
好きだったひとのこと。
なんにも知れない誰にもなれないだれでもなくともあの子のままで、変わらないでいてほしかっただけなんだよ。
そんな、わがまま、捨てられないで。
それだけがいま、わたしを支えてる。
いつまでだってそうだよ。
ねえ、カフ。
世界のへし折れる。

『空談姫』
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