『ニニと神さま』#5

錯雑とやかましい空の夕暮れめいた安寧は永遠にほどかれることなくわたしたちを損ねつづけるのだった。知らないことばのそればかり、四辺に配され読まれも読めもしないいつだかを結構してゆく。くりかえす。延延と。
ねえ。
「なんじゃい」
なぐさめみたいなわたしでいても、そんでもカフは、うれしいかしら。
「うむ」
カフのことばのひとつだって例外なく嘘の十全でだからどこまでだってかわいい。完全な嘘は完全な真実でもあってだからどうしたってかわいいのとおんなしで。そうじゃない?
「ニニ」
なあに。
「ねこ」
ねこのねこらしくうずくまってわたしのうしろに透きとおっているのが見えた。気がした。
「うそねこ」
うそねこ? ということばはよくわからなかったけれどもねこが嘘だという意味なのだとしたらそれはほんとうで、だからここにはいない。カフと、カフのことばと一緒だね。わたしも、神さまも。いつからともなく神さまだったわたしはもうひとつの神さまだったあなたがとっくの昔にいないことを知っている。なんにもどこにもいなくって、ひょっとしたら未来だったかもしれない? いましがたかもしれないのだけれどもとにかくこの瞬間にはいやしなくってだからしずかなんだってことを知っている。そうだよ。だからこそ代替品としてのねこが換装・・されたんじゃない。代替品としてのわたし。代替品としてのカフ。ぜんぶ、いつわり。だから、きれい。
「おはな」
花の仮象はすくなからずわたしたちのかたちに影響を及ぼしたらしかった。わたしはわたしでわたしのゆびさきばかりをぼやけた輪郭にすべらせて眠りたがってうるさかった。消失した境界線がありもしない地平を描く過程の相当部分が省略されて断片だけが空空しかった。ひかりのように振舞って気にいらないのがわたしっぽいなと感じたわたしをわたしは気にいらず、打ちけすように腿を捻りあげてばかみたく身をこわばらせたがった。わたしは実のところわたしとカフ以外のなにもかもが嫌いであるのかもしれない。どうしようもなく。ねえ、うんざりね。わたしはわたしをくそったれななにもかもごと再生することになるんだろうね。きっと。遠くない未来に。
「すてき」
そう思う? カフ。
何度もはじめて何度も終わって、はじめてみたいなはじまりだって無限につづけてきた。無限にだって終わらせて、そんでもカフは、もういいよって思わない?
小首を傾げたカフはなんにもわからないふうでそうじゃない。わたしの髪にゆびをからませて、わたしがいつか、カフにそうしたみたいに。
カフのまっしろなほっぺたがわたしの頬をくすぐるのがわかった。
カフ。
カフ。
もっと、さわってほしい。
時の芽吹くように虹彩へと滲透してゆく。わたしはわたしの見るものの、波状に灼かれてこの上なくうつくしいいまをかけらだって零したくはなかった。てのひら、うつわをつくってかかげるカフに原初の焔を知るようだった。
世界のへし折れる。

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