無人島に持っていく一冊なんて選びようがないと思っていました

無理だろそんなのって
でも本棚の前に立った瞬間、正解がわかりましたね

「霧の中」

不思議だ、霧の中を歩くのは!
どの茂みも石も孤独だ。
どの木にも他の木は見えない。
みんなひとりぼっちだ。

私の生活がまだ明るかったころ、
私にとって世界は友だちに溢れていた。
いま、霧がおりると、
だれももう見えない。

ほんとうに、自分をすべてのものから
逆らいようもなく、そっとへだてる
暗さを知らないものは、
賢くはないのだ。

不思議だ、霧の中を歩くのは!
人生とは孤独であることだ。
だれも他の人を知らない。
みんなひとりぼっちだ。

ヘルマン・ヘッセ著 高橋健二訳『ヘッセ詩集』p.59-60 新潮社 (1992)

そう、ヘルマン・ヘッセです
ぼくの人生に影響を与えた唯一にして最大の作家です

出会いは高校生のころ
日々鬱々と暮らしなんらの希望も抱くことなくただながらえるばかりのぼくを救ってくれたのが彼の著作でした

読んでいなかったらおそらくいま生きていなかったでしょうね
そんくらいなにもわからないでいたんだよずっと

といっても人生観や死生観を変容させたのは引用した『ヘッセ詩集』ではなく『クヌルプ』という作品
本自体が薄く、中身も飛び飛びで全体を見るとまとまりがないんですけど、でも主人公クヌルプの在りかたはたしかにぼくを救ってくれました

詩集を選んだのは凝縮されているからです
いわゆるエッセンスってやつが

あらかた読んで、そのさきで一冊抜きだすとしたらぼくの場合はこれになるんですよ
それで、ですね

たぶん、いえ考えないようにはしているんですが、自分もそうしたものが書きたいんだろうなと
自分にとっての、ひょっとしたら誰かにとっての魂の書ともいうべきものを

でも考えちゃったら書かざるを得ないでしょう?
まだ早いんですよ
なにもかも足りてない

ただ、そんなことをいっているうちに時間切れになりかねませんから
自作に通底するものを捉えなおし、自分を救ってくれたものを捉えなおし、完全なかたちでことばにあらわしてゆきたいと考えています

「書物」

この世のあらゆる書物も
おまえに幸福をもたらしはしない。

だが、書物はひそかに
おまえをおまえ自身の中に立ち帰らせる。

おまえ自身の中に、おまえの必要とする一切がある。
太陽も、星も、月も。
おまえのたずねた光は
おまえ自身の中に宿っているのだから。

おまえが長い間
万巻の本の中に求めた知恵は
今どのページからも光っている、
それはおまえのものなのだから。

ヘルマン・ヘッセ著 高橋健二訳『ヘッセ詩集』p.132-133 新潮社 (1992)

実のところ久しぶりに手にとったんですけど、やはりよいですね
詩も小説も訳者次第なところがあって、特に詩は原文で読まないとわからないなんて言われるんですけれども、いいじゃんかこれはこれで、そう思いません?

わからなくってもわかるんだよ(?)
わかれなくってもわかるくらいじゃないと書けねえよ、特別なものは

コメント

タイトルとURLをコピーしました