『幻鎖』

境界線を穿つ雨を、あなたの瞳をとおして見るわたしの、もうとっくに亡くしたはずの言葉のどこから零れてつたうのか。いつだって在りし日の思い出みたいに文字におきかえてだって欲しかった。ゆきすぎた日の凪いだ夜みたいに傍らに欲しかった。おちる音がする。はねる音がする。大気に、とける音がする。


詩を失ってそんで、ぼくはどうして君に救われるだなんて考えたのだろう。どうしてぼくはぼくを見なかったのだろう。どこかの誰かの発明品、欠陥だらけのまがいものは、そんなものでもそれなしには生きられないとぼくを信じさせるほどにはうつくしかったはずなのに。


忘れられて誰も気づかない意味の、かくれんぼのいつまでも見つからなかったあの人みたいで大好きで、だから薄くはった氷を隔てた水たまりのむこう側はわたしでなければわからないんだと、そう言ってやった。ちりばめられた星のいくら眇めたところでだれかのほんとうのほんのひとかけらだって浮かんでいやしない。


たがいちがいに咲く花の銘記されたたったひとつの心のかたちを、途切れない糸のどうしたって忘れさせてはくれなくて、あわくほころぶ夜の永遠は、たとえ記憶の澱の底の底であろうとたしかに揺らめく。焔のように。


さびしいからつくった、かなしいからこわした、あたしだけがいたせかいの、あなたのためにあったの。あたしのたいおんはじかんにながれこんでうちゅうになって、あたしのゆめはくらやみにながれこんでうたになった。だれだってひとりでは、だれにだってなれはしないんだって、しらないままだった。しずかだった。いないひとのことを、いまでもあいしてる。あなたとよべなかったあなたを、ちいさなかげを、ただのまぼろしを。

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