『瓦礫の星の降るころに』

花は咲くのよ、どこにでも。あなたがそれを望むなら、望むかぎりに、なんどでも。


きみがそう云って泣いた日に、あたしは生まれたんだってさ。

いつわりばかりの片親ごしに、うんざり顔の乳母のミーザがこっそり教えてくれた。

でもね、あのとき、だれにむかってそんなふうに訴えかける必要があったの、きみ。

ほんとうなんてひとつきりだってありはしなかったのに、わかりきったことだったのに、生きて、いつかは死ぬことさえも、そばにいることさえも嘘だったのに。


あおくて、きれいで、つめたい月を、はてのないくりかえしを、いまでもどこかで見つめているのでしょう?

いまだってきみは、ちがった道を選びとることができただなんてそんなことすこしばかりも思いはしないのでしょう?


「殺してください」

それはね、恨みごとのひとつやふたつ、無いとはいえないけれど。

「お願い。殺して」

そうだね、そうしたいくらいには、きみがきらい。だから、ごめん。もう行くね。


扉のあとにはなにも無い。

刮ぎとられた大気ごと虚無に置きかえられてすべては亡失する。

過去にも現在にも未来にも、ただの一瞬いちどでも、あたしたちここにありはしなかった。

よかったね、だれもがみんなはじめからいなかったことになりました。

よかったね、禱りのすべてはひきつぶされてもう還りません。

へらへらわらって見送れよ。


ミーザがとじる本のたてる音があたしは好きで、だから自分でふれたりなんてぜったいにしない。

ミーザがひらく本のたてる音があたしは好きで、だから彼女以外にふれさせたりなんて、しない。

あたしが好きなものはぜんぶがぜんぶミーザにつながってばかみたいだなんて思わなくもないけれど、ちがうとか、いやだとか、だからって考えたりなんてしない。


「ねえ」

なあに

「水際のはるかに遠のいて」

せかいの

「まるですきとおるみたい」

あさよりいつよりきれいなら

「ゆこうか」

ふたりで

「いますぐに」


あらゆる光の、星星の、ただ夜をつらぬくためだけにうまれてきたの。

さざなみみたいな音のまじりあってすべての時間をつなぎあわせたさきにあたしたちはあるの。

まちがいだらけのあたし、うまれそこねのあなた、くだらないなにもかもをどうしてこんなにもいとおしく思うのか、かみさまだってきっとおしえてなんてくれはしないのだから、手だってつないでいつまでだってはなさなくていいなんて、ありうべくもないいまばかりをずっと、ねえ、きみと信じていたいんだよ。

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