『調弦廻廊』

 造化する宇内の、無数の境界線が並行して存立し得るのは、全天を穿貫し、遍在する凝聚点の統御の絶対性の些かも揺るぐことのない為で、つまるところ、僕らはあなたによって此処にあらしめられ、生かされている。

 あなたは世界を調律する。間断なく、澱みなく、とこしえに。

 いくつもの音階を軽々とびこえ、僕と、たとえばもう一人の僕とを、でなければたったひとつの君とを結びつけるあなたは、けれどもあまりに繊弱で、夜を彷徨う影のように孤独を内包してやまない。

 透きとおった指さきの、ほっそりと心許なく、偏差領域の糸のひと渡しのようにはねるたび、僕はつく息も浅く、燦爛する粒子に眇めて噎んだ。

 でもね、だからこそ、たとえ何者であろうとも、あなたにだけはけっして届かない。誰も。神ですらも。

 廻廊には無数の石柱が、刻まれた神話を抱いて立ち並ぶ。

 ここには夜だけがある。

 遠い揺籃期の輝きが、全天を覆って僕らを地表に描きだしている。

「わたしとあなたは、星に似ているの。ひとりぼっちでつまさきで、さよならばかりをなぞっては、ほんのすこしのさびしさを、花片のようにもてあそぶ。さよなら、さよなら、わたしと、あなたと、二度と見る者のない光たち。さよなら。そう言って」

 雪みたいな惑星の、並ぶこともすれ違うこともなく彼方まで、いつか、たどり着いて降りそそぐなら、僕は君の頬を濡らし、君のくちびるに溶けよう。

 あなたは世界を調律する。


 無涯の空を仰いでは、つまびく糸の、あまく響かせて。

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